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ふりかえり入門した、ふりかえり

 こんにちは。ISID XI 本部 AI トランスフォーメーションセンター所属の福竹です。
 本記事はISIDアドベントカレンダー記事の7日目の記事となります。

これは何?(TL;DR)

 ふりかえり初心者が「ふりかえり」に興味を持ち、今年やって試したこと考えたことのふりかえりです。色々書きますが、コアメッセージは一つ「ふりかえりはいいぞ」に尽きます。

Why ふりかえり?(ふりかえりに興味を持つまで)

 私の所属する組織では、内製&スクラムでプロダクト開発をしています。10人弱の開発チーム全員が何らかプロダクトの開発者でありスクラムメンバーというチーム構成です。筆者個人は今年この開発チームにジョインし、現在はプロダクトの1つのスクラムマスター(修行中)を務めています。
 ……とは言ったものの、私自身スクラム開発は現職が初めての経験で、個人的に本年はキャッチアップと試行錯誤の年でした。少しでもベース知識を仕入れようとスクラム関連の書籍を読み漁っていたのですが、そんな折に誘われた社内の読書会(※仕掛け人はアドカレ6日目の橋詰さん)で本記事を書くきっかけの一冊に行き当たります。

アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット

書影

 「ふりかえり」という手法が色々と琴線に触れた事もあり、本書片手にチームメンバーの協力をいただきながら試行錯誤した事が、本日の本記事のネタになります。

What is ふりかえり?(ふりかえりって何?)

 本記事はHow toを主眼にしないので詳しくは割愛させてください。具体感としては、「YWT」「KPT」「FUN/DONE/LEARN」等の、アジャイルレトロスペクティブに端を発する(そして実際のところアジャイル開発関係なく活用できる)アクティビティを想定しています。詳しくは是非とも参考書籍&情報を御覧ください。

Y:やったこと(やっていること)

 やったことそのものはシンプルです。

1. きちんと時間をとって、開発スプリント毎のふりかえり(スプリントレトロスペクティブ)をやる(やった)

 最初に気付いた事は、担当製品のチームで既存メンバーが忙しすぎて、数ヶ月ほどふりかえり(スプリントレトロスペクティブ)が止まっていた事でした。そこで開発の山を超えたあたりで私が無邪気に「ふりかえりやりたい!」と言い出して、月1程度の頻度で、ふりかえりを設定して実施することにしました。(そして言い出しっぺの権限で好きにアジェンダを組ませて貰いました)。基本的な事ですが、けっこう状況としてはあるあるだと思います。
 とはいえ最初は右も左も分からないので、「ふりかえりガイドブック」付属の「チートシート」を参考に恐る恐るアジェンダを組みました。以後も基本的には一部を組み替えつつ、チートシートを参考にしています。拙くて恐縮ですが、アジェンダ例(45分)はこんな感じです。私がそうだったのですが、やりはじめは具体例を知りたくなると思うので載せておきます。(2回目以降も、基本は「KPT」を軸に同じような内容で設定しました)

  • 希望と懸念+信号機(5分:アイスブレイク兼、期待値の確認)
  • KPT(15分:ふりかえりの本丸)
  • TをEffort&Painで整理(5分:なるべく小さくすぐ始められるTryを集める)
  • +/⊿でふりかえりのふりかえり(5分:次回へのフィードバック回収)

 なお開発チームはフルリモートで業務を行っており、ふりかえりの実施もWeb会議です。色々考えてSharePoint上に配置したPowerPointでホワイトボード風のページを用意して、時折画面共有しながら時間中にOnlineで共同編集する作戦をとりました。意外と成立します。

2. 開発業務以外にも、現状認識のチェックやアイデア出しにKPTやEffort&Pain等のフレームワークを使ってみた

 1を何度か製品開発のスクラムでやって気を良くした私は、マネージャーに相談してチームMTGでも「ふりかえり」チックなグループワークを試すことにしました。一般化しづらい内容なので具体的には書きませんが、「上半期のxxを振り返りつつ来年のyy 戦略を考える」みたいな内容にグループワークを持ち込むようなイメージです。
 こちらについての気付きは後述しますが、成立こそしたものの課題もありという感じでした。

W:わかったこと(気付き)

 ここからは、実際に「ふりかえり」に取り組んでみて、わかったことや気付きを何個か書いていきます。

基本はKPT。しかし書き方や時間配分は基本を守ったほうが良い。

 環境によって差はあるかもしれませんが、大抵の人がすんなり入ってくれるのはKPTかなと感じています。ただ人数にもよりますが、書き方と時間配分は基本を崩さないほうがいいと感じています。基本というのは、この辺です。

  • KeepとProblemとTryを書くタイミングは分ける。 グループワークとしてのKPTは他メンバーの書いた内容からも気付きを得てほしい。まとめてやると個人が持っているKPTの論理展開を書いてしまいがち。

  • Kでポジティブにスコープを振り返る時間をきちんと取る。 これが不十分だとPTが個人の反省会になりがち。 そしてKのシーケンスは多少共感や発見を重視する。「あ、こんないい事あったんだ」と思えたらしめたもので、「どうしたら他にも良くできただろう」という方向にいく1

 またKPTは最後のTを、きちんと明日からのTryに繋げていくのが一番難しいなと感じています。ついついPの議論は盛り上がりがちですが、Tもちゃんと時間を取って全員で整理しないと、せっかくメンバーが出してくれたTryを積み残しがちでした。この辺はまだ修行中です。Feasible & Useful(実現可能性と有用性の2軸でTryをプロットする)なども使いながら、全員で見える形にして実現性や優先度を整理すると改善に繋がりやすいかなと感じています。

ツールはなんだっていい。ただ、参加者にとって平等で、直感的に使いやすいことは大事。

 全員がフルリモートの状況でふりかえりを始めようと思った時に、最初に迷ったのがツールでした。専用ツールでオサレにやりたい欲が頭をよぎったものの「初回はとにかく説明なしで誰もがすぐ入れるもので 」と思い、弊社ではOffice 365が浸透していた事をふまえて、PowerPointを online編集する形を取りました。好みもあると思いますが、Office 365が利用できる環境であれば、手っ取り早い選択肢の一つとしてお勧めです。
 結局この辺りはファシリテーターファシリテーションしやすいかで決めていいと思いますが、同時に大事かなと感じているのは「参加者にとって平等で、直感的に使いやすい事」だと思っています。例えばKPTを個人で書き出すだけなら書き下しのメモ帳やチャットツールのスレッドでも可能ですが、グループワークとしてのふりかえりでは各人のアイテムがなるべく平等に並んでいる状態が理想です。テキストの書き下しはどうしても順序性に縛られてしまい、オンラインな議論よりもバッチ処理的な読み下しになりがちです。
 この点ホワイトボードツールに類するものは、位置を移動させる事で簡単に近似性や階層構造をその場で表現できる(そして違っていたら戻せる)のが圧倒的に有利です。いかに会議室で模造紙に貼る付箋が要件を満たしていたかを再発見した気分でした。

アレンジする時は「何が目的か」「迷いなくスコープを見つめてもらえるか」を考えておくことが大事。

 アレンジはまだあまりしていませんが2、目的がファシリテーターの中でハッキリしていれば、アクティビティの多少の組み替えは機能しました。
 ただ当たり前かもしれませんが、アレンジを組み込む時は、「この書き方で参加者全員が同じように受け取れるか?」よくよく考えて準備する必要もあります(ふりかえりに限った話ではないでしょうけど)。
 少し恥ずかしい失敗例ですが、メンバーがグループワークに慣れてきたあたりで、ふりかえりに関係のないMTGでも自己流のグループワークを設定してみました。ところが参加者からは「これってどこまでを含みますか?」「○○は含まれますか?」という質問が頻発して認識合わせに意外と時間を使ってしまいました。自己流が全くダメとは言いませんが、こんな質問が参加者から頻発する場合は、用意した枠組みが本当に抜け漏れ、重複のないものか また言葉の定義が参加者共通で認識できているかよく問い直す必要があると気付かされました。そしてふりかえりの既存手法は直感的にこの辺りをクリアしやすいよう簡潔になっているのだな、という事にも気付けました。

リモートファシリテーションに「ふりかえり」は効く。

 結局のところ自分がふりかえりに惹かれたのは 「どうすればリモートワークでも発散系MTGを実りあるものにできるか」という問題意識に一番ミートした というのもあります。Web会議はどうしても同時発話が成立しづらかったり、同期的な議論がしづらい場面があって、その点決まったルールに従って非同期で参加者が個人の考えを書き出していくシーケンスを挟む方式は相性が良いと感じています。

 以上、多少シチュエーション依存の内容になるため一般化しづらい内容もありますが、何かしらの参考になれば幸いです。

T:つぎやること

 個人的に次やりたいことは色々あります。本記事を書きながら色々と調べていて、発端になったガイドブック作者の森さんが結構な量のリソースを公開していることに気付きました。ある程度自分でTryした後に、こうした外部情報でノウハウ面を仕入れ続けるのは効果が高そうだと感じています。

Qiita:ふりかえりを拡張する「ふりかえりカタログ」

  後は何冊か他の本にも潜ってみようかなと思います。

アジャイルレトロスペクティブズ 強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き

書影

 また(自戒を込めてですが) 「ふりかえりって結局何のためにやるの?」 という問いへの答えは常に考えておきたいところです。この答えはおそらく、ふりかえりを実施する場面や人、チームによって様々だと思います。この点は、最後に少しだけ自分たちの価値観の話をします。

ユニコーン企業のひみつ

書影

 今年チームで読んだ書籍に「ユニコーン企業のひみつ」という書籍があります(素晴らしい本です)。この書籍の好きな一節に「スタートアップの本質は『学習する機械』であること」 という言葉があります。
 私達はスタートアップでこそありませんが、チームとして常に学習すること、成長することを重視しています。ふりかえりの目的や捉え方は様々かと思いますが、私は「チームが学習する機械であるために有用なアクティビティの1つ」だと捉えています。アクティビティとしてのふりかえりは楽しみつつ、この辺りの価値観を体現できるよう「チームで柔軟に試し続ける・変え続ける」 姿勢を今後もセットで大事にしたいと考えています。

 皆様も是非、よきふりかえりライフを。


執筆:@fhiroaki、レビュー:@sato.taichiShodoで執筆されました


  1. 同じような話が及川さんのtweetにも出ていて、あぁウチだけじゃなかったんだなぁと。以下まとめは現場の知見がいっぱい集まってるのでおすすめです。Togetterリンク:KPT (Keep/Problem/Try) 等のふりかえりで、K (Keep) ネタを増やすみんなの工夫

  2. 「KとPは事前に書いて読み上げの時間は取らず、当日は他のメンバのものをじっと読んでレスポンスする時間にする」(メンバが発話に慣れて来たこと前提で、記述量が増えてきた後の時間短縮として)「KをFUN/DONE/LEARN に置き換えてそのままPTに行く」(メンバの成果の承認に時間を取りたい)くらいでしょうか。